
だいぶ前に、港区魚藍坂の途中の寺でブルーフォックスが飼われているのを見た。顔は確かにキツネなんだけど、体は長毛種の猫のようだった。そのキツネを見た数日前に、新宿区の落合というところでタヌキを見た。なんでもCMやテレビ番組などで使われるタレント動物とのことで、その事務所の外に紐で繋がれていたのだった。そのタヌキを撫でようとしたら手をガブリと噛まれた。なのでキツネも意志の疎通が難しい動物かも、と思って触るのは止めておいた。
このキツネを見ていて思い出したのだが、以前鬼怒川温泉へ行ったとき、散歩がてら歩いていた山道の途中でマタギ(山で狩猟や、きのこの採集などをして生計を立てている人)に出会った。そのおじさんは、道端の石の上に座って、明るい山吹色のふわふわしたものを左手にぶらさげ、右手にはナイフを持っていた。最初それが何か全く判らなかったが、よく見ると顔が付いている。「それは何ですか?」と尋ねると、「これはな、“テン”だよ。うちのかあちゃんのエリマキにしてやるんだ。」とうれしそうに言っていた。
山吹色のテンは、捕まったその場で皮を剥がれてしまったわけだ。冬枯れの茶色い山の中で、おじさんの手からぶらぶらしている鮮やかな山吹色の毛皮はものすごく生々しく、そういうものをエリマキにするかあちゃんとはどんな人なのかな、ということも少し気になった。
魚藍坂のキツネは、その点しあわせなやつだな。死んだらどうなるかは知らないけれど、どうかな。