すぐ近くに大手チェーンのドラッグストアが2軒、それに処方箋薬局も2軒と立て続けにできてしまったから、古くからの個人商店では太刀打ちできなかったのだろう。実際、私もそのくすり屋を利用したことはなかった。木枠のショーケースの上には折鶴ランの鉢、壁のポスターは色あせ、今でも乳鉢で粉薬を調合してくれそうな白衣のおじいさんが奥にいた。そのまま江戸東京たてもの園に移築しても違和感のない雰囲気だった。
先日、前を通りかかった時、半分シャッターが開いていて、ガランとした店内でおばさんが掃除しているのが見えた。もうすっかり商品も什器も処分してしまったと思ったら、すみっこに不要品と思しきものがいくつか置かれていて、その中に傘立てが見えた。
私の店にはまだまだ足りないものがたくさんあるのだが、そのうちのひとつが傘立てで、なかなか満足いくものが見つからないので、妥協して変なものを買うよりは、なくてもなんとかなる、と開き直っていた。(お客さんにしてみれば傘の置き場がなく迷惑な話だが。)それで、ダメもとでおばさんに、「この傘立てを譲っていただけませんか」と声を掛けた。ほうき片手におばさんが出てきて、「どうせ捨てようと思っているものだから、どうぞお持ちなさい」と言う。思いがけず、傘立てを入手。
店に持ってきて、水洗いをしてホコリを落としたら、まるでここに何十年もあったような顔で、入り口の脇にぴたりと収まった。