いつもはJR山手線日暮里駅から歩いていくのだが、今日は一駅前の西日暮里駅で電車を降りた。線路沿いの急坂を登って諏訪神社へ。
ここへは子ども時代、保育園のお散歩でよく連れてきてもらった。広い境内の端まで行くと、諏訪台の崖の上から荒川方面を望むことができる。眼下にはJR山手線、京浜東北線、常磐線、東北新幹線、京成電鉄の線路など10あまりの線路が並び、電車好きな子どもには絶好の場所である。

この諏訪神社境内から、線路際に降りていく階段がある。今は高架線路の下を通るトンネルに続いているが、私が子どもの頃はまだ線路は高架ではなかったように思う。

保育園のお散歩のある日、みんなでこの階段を降りていった。階段の一番下には小さな門扉があり、先生が扉を押すと鍵はかかっておらず、「あら、出られるわ、行ってみようか」などと言って順々に全員が線路の上に出た。
線路を歩くのは初めてだったので、なんだかとっても楽しくて、みんなできゃあきゃあ言いながら西日暮里駅の方へ歩いていった。途中、線路際(諏訪神社と線路を挟んで反対側)にある木造家屋の庭先で洗濯物を干しているおばさんがいて、先生が「ここは電車通るんですか?」と聞くと、「たまにしか通らないですよ。」とそのおばさんは答えた。
諏訪神社から西日暮里駅までは、おそらく100メートルも離れていないので、実際に線路を歩いたのは短い間だったのだろう。歩いていったのは山手線の線路なのか、常磐線の線路なのかもわからない。季節も覚えていないが、ポカポカとあったかくて、鳥の声が聞こえていた。
仲のいい子と手をつないで気分よく線路を歩いていると、突然前方から「走れー!はやくはやく!」とおじさんの声がした。よく見ると駅員さんが大声を出して手招きをし、みんなを線路の外に出している。私もあわてて走り出した。駅員さんは真っ赤な怖い顔をして、「はやくしなさい」と怒っている。こづかれたりしたら怖いので、友だちと一緒に体をかがめて駅前の道路(道灌山下通り)に出た。駅の入り口あたりで他の駅員さんが先生に、「ダメじゃないですか!どこの幼稚園?」と怒っており、先生はペコリペコリと頭を下げて謝っていた。
私の記憶はそこまでしかない。大人になってからこの話を母にしたら、「そんなことはあり得ない、夢でも見たんだろう」と言う。しかし本当にあったことで夢ではないのである。しかし自分でも夢のような話だと思う。なぜ、先生は門を越え、電車が来るかも知れない線路を多数の保育園児と歩いたのだろうか?先生はあのあと駅員さんにたっぷり油を絞られたのだろうか?結構な事件だと思うのに親に報告はなかったのだろうか?
諏訪神社に来ると、いつもその不思議な時間のことを考える。
>鳥の声が聞こえていた。
こういうことは妙に記憶に残っているのですよね、空気感とか感覚、ね。
静かで、とても電車が通るとは思えなかったです。
夢じゃないんだよなぁ。