
▲JR目白駅:21時
今日は夕方から雪。雑司が谷の奥地まで歩いて来る人も少なかろうと、湯たんぽ袋をミシンでカタカタ縫ったり、バックヤードにたまっている新商品の品出しを。
桜の柄の手ぬぐいを5種類、おだんご柄、新しい猫の柄のも出しました。ショーウィンドウだけ、春を先取り中。
明日もあさっても営業します。気分は『魔法のお店』(荒俣宏訳/奇想天外社/1979年)。
15年ほど前から繰り返し読んでいる大好きなアンソロジーで、奇妙な店、不思議なものを売る店の話が11編おさめられている。
この本の序章で荒俣宏がこんなことを書いている。
「あるお店は、まるで、ぼくたちに夢を贈るために存在するかのようにみえる。町かどの古ぼけた骨董屋のウィンドにかざられた、冴えないピンクのネックレスが、あなたに思いがけない夢をとどけてくれることだって、ないとはいえない。
そうした魔法の店は、かつて街路にあふれていた(現代に生きるぼくたちにとって、不幸なのは、お店というお店が市[まち]の横暴によって街路からひっそり身を引き、今では容易にその看板を見つけられなくなってしまったこと。ただそれだけなのだ)。」
「しかし、店にまよいこむことは、ひとつの偶然であるか、さもなければ夢の体験に似ている。
それは夢からの覚醒のように、商品を買って店から一歩出たとたん、現実のものではなくなる。あなたがもしも再度そこに足を運んでも、ほんとうのところ、それはまったくかつての「空間」ではない。夢の体験に二度めはないのだ。<中略>
店とは、無数の入口とたったひとつの出口をもつ「魔法の空間」である。あなたが何度そこに足を運ぼうとも、あなたはけして同じ入口をたどることはできない。そして唯一の出口とは、もちろん、現実へ帰る道のことでしかない。」
近隣の住人にとって、また偶然に前を通りかかった人にとって、魔法のお店でありたいと日々願いつつ、一喜一憂する毎日。お店は楽し。
[ われらの街で ] R・A・ラファティ
奇妙な街にはいつも奇妙な人々が集まるもの。小さな倉庫から大きな品物を次々に出荷する店、タイプライターのない代書屋、そして袖口からビールを取りだすビアポール。ふしぎなふしぎな魔法横丁。
[ 奇妙な店 ] ウォルター・デ・ラ・メア
都会の片すみに、こんな静かな店がいつまでも残っていてほしい。星の音やこおろぎの鳴き声、つゆの滴る音や良心の声、いつのまにか忘れてしまったそんな<音>を売ってくれる、まるで時の流れにとり残されたような心やさしいお店が。
[ おもちゃ ] ハーヴィ・ジェイコブズ
劇的なできごとになんか縁のない、平凡でつつましやかな生活をつづけるぼくたちにも、生涯に一度や二度は奇跡がおきる。たとえば、幼いころに自分が使ったおもちゃがそっくり、一軒の骨董屋から売りに出ていたとしたら……それも、年に一度のバーゲン・セール、お客一人に一品しか売らないルールのもとで。
[ マルツェラン氏の店 ] ヤン・ヴァイス
店をたたもうとしたマルツェラン氏に、たったひとつどうしても売れない商品があった。いつまでも新しい、皮肉で冷酷な帽子……これを売らなくては、安らぎなど……
[ 魔法の店 ] H・G・ウェルズ
よい子にしか這入れない<純正魔法の店>が、ロンドンにある。しかもそこで買えるのは、そんじょそこらにある手品の道具ではないのだ。自由に奇跡を生みだせる仕掛け、別世界へくぐりぬけていける魔法の筒、そして自然に動きだす兵隊人形。それらみんなが、よい子にはタダで買えるのだ。
[ ピフィングカップ ] A・E・コッパード
世界を旅する放浪者から、うっかりもらいものをしないこと!思わぬ呪いに手を焼いて、果てはジプシーの占い屋に足を運ばねばならなくなる。その戒めを忘れたばかりに、P氏の床屋は魔法にかかった。
[ 角の骨董屋 ] シンシア・アスキス
好運がころがっているお店というものは、どうやらほんとうに存在するらしい。二束三文の代金でふと買いこんだ骨董品が、実は古い支那の名品だったり、あるいは女王の愛用された由緒正しい宝物だったり。そしてここにも、そんな好運の物語がひとつ。思いがけない結末付きで……
[ 支那のふしぎな薬種店 ] フランク・オーエン
世界でいちばん<魔法の店>が多いところ。それはもちろん、あの古く華麗な中国大陸。なかでも創業二千年を誇る陜福博士の店は、心の病に効く薬や不死が手にはいる秘薬ばかりをそろえて、今も中国のどこかで営業をつづけているという。
[ 小鬼の市 ] クリスチーナ・ロゼッティ
買いにおいでよ、買いにおいでーーー
小鬼の商人たちが呼ぶ声に、ゆめゆめ耳を傾けぬこと。もしも小鬼の市で毒ある果実を口にしたら、その子はもう助からない。しかし日に日に衰えていく妹を救おうと、健気な姉は小鬼の市に出かけた。たとえこの身が朽ちようと、小鬼の魔の手におちようと。
[ 壜のなかの船 ] P・スカイラー・ミラー
打つ手、守る手、息づまるような静けさの中で勝負をかけた駒が行き交う。勝てばペルシャ製のこのチェス駒が手にはいる。しかし、もし負けたら…… 謎めいた店の主人を相手として、奇怪な運命を賭けた勝負を開始したわたしを、戸棚の背後からジッとみつめているのは、幼いときほんの一瞬見たあの<壜のなかの船>だった。
[ ショトルボップ ] シオドア・スタージョン
恋に破れた男が、ニューヨークのふしぎな店でもらった薬を飲んだとたん、見えてきたのはあの世の住人、つまり幽霊たちだった。でもここでひるんでは男がすたる。ぼくは幽霊とやくざ者を相手に、ひと芝居打つことを思いたったのだが……